店主の
ひとりごと
千枚の着物 | |
仙台に住む知り合いの呉服屋さんから伺ったお話です。 今回の震災後、千枚ほどの潮水に浸かった着物を、お客様から預かったとの事。 「この着物をどうにかしてほしい」、切なる想いで持って来られた様です。 どうしても捨てられない着物、そこに託されている想い…。 日本人は「空蝉」にもののあはれを感じる民族です。私達のDNAの中には恐らく、 物に心を寄せ、心を物に託すという無意識の働きが潜んでいるのでしょう。 また、七月のある日、被災地を訪ねた友人が、静かな海と瓦礫の積み重なる 大地を見るにつけ、「世の無常を思わずにはいられなかった」と話してくれました。 東北地方は古より、人と人との絆(結・ゆい)が脈々と息づいています。 それが仮設住宅に移っても大切にされているとの事。 「文化」とは、「文明」とは何かを問われた出来事のように思いました。 千枚もの着物に何を想うのか、人それぞれですが、思い出を大切にし、 そこに希望を見出し、今日を逞しく生きる東北の人々にエールを送ります。 人は、今を精一杯生きることこそがこの世の摂理なのではないでしょうか。 「閑さや岩に染み入る蝉の声」 芭蕉 合掌 空蝉=現人(うつしみ)、この世に生きている人間、転じて現世。蝉の抜け殻。 |
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vol.50 (2011年9月発行)より |
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