対談この人と
話そう...
たかす文庫「この人と話そう…」 藤田織物株式会社 代表取締役 藤田 泰男 さん |
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聞き手 蓮井将宏(や和らぎたかす店主) |
藤田さんの仕事熱 ■面白いものを作りたい
蓮井:先日色々お話伺って、藤田さんの帯に対する考え方に感銘を受けました。お生まれは何年でしたか?
藤田:昭和27年ですね。68歳です。
蓮井:この道に入ったのは?
藤田:大学の四回生から…。父親が事故に遭って重体になりましてね。従業員も当時6、70人いてて。家業のことは全然興味なかったんですよ、実は。でもやっぱり「後継ぎやってもらわな困る」と。それで他所に修行も行かずにいきなり始めました。で、とりあえず何をするかというたら帯の配色。なんでもええさかいにやれ、と。そう言われても僕わからへんからね、洋服は好きだったんですけどね、中高が私学でね。
蓮井:アイビーが全盛の時代ですね。
藤田:中学の時からアイビー一本(笑)VANの紙袋持って学校へいく、というね。
蓮井:ものすごくおませでしたね(笑)
藤田:母親がそういうの好きでね、僕は小学校から母親の手縫いの洋服ばっかり。コートにジャケット、シャツから何もかも。
蓮井:それは贅沢ですね!
藤田:今思えば。でも当時はそれが嫌で。他の奴らは買うてもろてるのに僕は縫うてくれるから、買えない。で、アルバイとしてね、初めて買うたんがラコステのインポートのポロシャツ、白!四千三百円。覚えてる。嬉しかった。楽しかった…。
蓮井:そういうところで自然にセンスが磨かれたんですね。
藤田:ま、そういうのが土台にあるかもわかりません。で、帯の配色、こんなん簡単やんと、最初バババッとやってね。「こんなところにどうしてこんな色が出るかな」と言われたことがありますね。だから最初10年間は美術館と博物館と、毎週土日に必ず行ってた。23から33まで。和の色の勉強せなあかんから。それをやるかどうかは別ですよ、でも何かやるためには勉強せなあかんので。
蓮井:その10年間、何を学びとりましたか?
藤田:日展、院展、と毎年ずっと行ってるとね、ここに何が掛かって誰のがあってというのがパッと分かるようになるんです。つまり個性がある、ということはそういうもの、誰も人のマネはしてはらへんのです。でも呉服はわからへん。どこの帯屋の帯か、わからん。僕はこれがずっと疑問でね。なんで同じような帯になるかというと、人と同じことしかしてないから。僕は人と違う、面白いもん作りたい。そこで思いついたのが、立体形状という発想。
蓮井:それはどこからの発想ですか?
藤田:例えばね、雨が降ってきて窓ガラスに雨粒があたる、滴が流れる。点が流れて線になり、下に落ちて面になる。それを帯にしたいと思った。点と線と面。面を立てたら立体形状になる。その当時、帯はジャガードで細かい織り方を競ってた。でも写真のような帯なんて綺麗なだけで面白くない。もっと素朴に、手と足使って、頭働かしてやったらもっと面白いもんができるんちゃうかと。僕数学好きやったから、たまには引き算でね、やったらどうかと。だから結構いろんなところに数学の要素が入ってますよ。
■百人百色の仕事
蓮井:このスタイルにしたのは何年くらい前ですか?
藤田:もう20年になるかもしれませんね。44、5くらいまでにジャカードの紋紙、全部廃棄しましたからね。今は昔のような帯はやってません。その頃作ってた帯も売れましたけどね、でも帯の価値というのはそんなんちゃうと思ってね。たくさん作ってたくさん売る、というのは虚しい、職人はもっと良いものづくりをしたいと思ってるんちゃうかなと。
蓮井:虚を感じたんですね。
藤田:今までの仕事(機織り)はあらかじめ決まっていて、足で踏んだら勝手に(経糸が)上がってそこに緯糸を通すだけ。そうじゃなくってもっと想像力を使うもの、人間の手と頭を働かすということ、それから職人も僕も、自分だけの世界じゃなくてみんなで物を作るということ。そうでなければ帯に魂が宿らないと思ったんです。帯の構成の90%は僕が考えるけど後の10%は職人の思いを入れ込むというね。
蓮井:そこにそれぞれの遊びが出てきて、僕らが見てて楽しいんですね。
藤田:その動きが職人の感性なんです。ただしやり過ぎるのはいかん。面白くない。許容できる範囲があって、その中だったらかまへん。それ以外は僕が数学的な要素できちっと構成してて、それ以上動かしては絶対だめやという規制をしてる。
蓮井:設計図があるんですね。自由に織ってるという印象ですが。
藤田:あります。設計図がなければ織れません。家と同じ。間違えたりやり過ぎたらぐちゃぐちゃになる。理路整然としない。その範囲を逸脱したら誰も楽しくない。
蓮井:今織り子さんが5人だそうですけど、5人いたら、5人変わる?
藤田:全部変わります。誰が織ったかわかる。引っ張り方、戻し方、拠り方、つぶし方、全部職人によって違う。これが面白い。設計図は僕が作りますからある程度は自分の中で予想があるけど実際の織り上りまではわからない。でも自分が思ったより良くなるはずなんです。なぜなら僕一人より職人と二人、二人分の思いが入っている。だから今言ったように、90%は僕がやるけど後の10%は職人の感性でやってもらってる。その10%がどうなるかを僕は見たい。ワクワクします。
蓮井:全部やらない。完全に設計図通りにさせるのは機械と同じ。そこにさらに良くなる可能性がなくなるからですね。それは織ってる人も楽しいし、締める人も楽しいですね。楽しく職人さんが作ってるから、僕らが見ても楽しい。
藤田:きちっとした設計図はあって、その中で遊ぶ。でも遊び過ぎたらアートになるから、それは違うんです。
蓮井:アートも良いけど、これは工芸、ということですか?
藤田:僕はそう思てる。同じようなものは出来るけど、でも同じものは出来ないし作らない。昔よう言われました、「なんで同じもん作らんのや」と。「その方が売れるのに」て。でも僕とこはそういうのとは違う。やっぱり唯一の帯、僕はそれが一番かなと思ってます。それと、やっててこれでええわというのが多分ないんですよ。あったら終わりですよ。常に一つのものを作ったら、次の構想ができてますからね。次こうしようというのがありますもん。
蓮井:突然家業を継いでから、藤田さん、独自の帯が出来上がり素晴らしい事ですね。
藤田:やっぱり職人さんと二人三脚で常にやるということが大事。何がええか悪いかわからないけど、こういうものをみんなで作り上げていくのが一番良いことで、それができるのが幸せなことですね。
■最後に
蓮井:ものを作ってる若い人にアドバイスはありますか?
藤田:一つだけ。僕が気をつけたのは他所の帯は見ないこと。見たら入ってくるから。他のジャンルのものや色とかね、自然はなんぼ見て勉強してもいい。本当のものに触れることが大事です。
蓮井:本当に今日は有難うございました。
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vol.87(2020年12月発行)より |
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