対談この人と
話そう...
2024年3月発行(vol.100) |
たかす文庫「この人と話そう…」
金工家 長谷川 清吉さん |
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聞き手 蓮井将宏(や和らぎたかす店主) |
家のため、自分のため
蓮井:今回でたかす文庫は百回号になるんですよ、その百号目に対談をお願いするのも何かのご縁ですね。ちなみに長谷川さんは何年生まれですか?
長谷川:1982年4月20日生まれです。
蓮井:長谷川家は尾張徳川家の御用鍔師の家系で、昔は刀の鍔を作ってたんですよね。
長谷川:僕の曽祖父の父までですね。
蓮井:何代目になるんですか?
長谷川:茶道具金工家として〝一望齊〟を名乗ってからは今の当主である父が三代目、僕がその次で四代目になります。
蓮井:そういうプレッシャーってありますか?
長谷川:普段あんまり、感じてないですね。
蓮井:家業のお茶道具もやりつつ、最近では超絶技巧の作品も作ってますよね。何かきっかけがあったんですか?
長谷川:きっかけというか…、自分の中では流れがあって、金工の茶道具って脇役的な面があるので、あまり作り込まず、おとなしめであることが必要ということでやってたんですが、徐々に技術も上がっていく中で、細かい彫りができるようになっても結局使わないとか、技術を持て余すようになってしまって。お茶道具製作にはそれで良い、と思っていたんですけど、ふとした時に、お茶のためじゃなくて家のため、自分のために、ここで培った自分の技術イコール長谷川家の技術じゃないですか、それをお茶道具以外のものも作ってアピールすることも大事なのかな、と考えて作り始めたんです。
蓮井:それはいつくらいから?
長谷川:気持ち的にはだいぶん前ですけど、実際に始めたのは2018年に初めて缶を作って、それから紙袋作ったりプチプチ(気泡緩衝材)作ったり。そうしているうちに超絶技巧展(「驚異の超絶技巧!明治工芸から現代アートへ」展)に呼んでもらって、というような流れです。
蓮井:自販機で売っているようなアルミ缶やプチプチの梱包材の形をそのまま写した作品たちですね、それが美術史家の山下裕二先生(明治学院大学教授)の目に留まったんですね。
長谷川:そうですね、個展で紙袋と缶を見てくださって。
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真剣に、やってきたからこそ。
蓮井:工業製品シリーズの素材はなんですか?
長谷川:銀、銅、真鍮です。プチプチとか缶は銀ですね、色味的に。紙袋は銅です。
蓮井:硬質な素材で柔らかさを表現をする、というのも長谷川家の力量なんですかね。
長谷川:異素材のものに近づける仕事って技術を見せやすいんですよね。そういう仕事をして技術見せつつ、自分の作品になれば良いなと。
蓮井:逆に、しっかりした技術がないとできないですよね。でもなぜ缶だったんですか?
長谷川:金工では生物を写すことが多いんです、植物とか虫とか。でも僕はそこにあまり興味を持てなくて、人工物になりました(笑)。普通は作品を作り込むほど完成度が上がってくると思うんですけど、僕が選んだモチーフはやればやるほど、なんていうのかな…、一見、バカバカしくなるような、そういうところが自分に合っていると思ったんです。
蓮井:作っている間は楽しい?
長谷川:どちらかというと、考えている時の方が楽しいですね。こんなものを作ってやろう、とか、こんなもの作ったら面白そう、だけどどうやって作ったらいいかな、とか。自分が使っている道具や技術を頭の中でシミュレーションして、あの道具を使ってこうやったらこうできるな、と考えていくんです。例えばプチプチは銀を、板の状態から気泡の部分を一個ずつ打ち出すんですけど、それを何百個、何千個も打ち出していきます。それで、銅とかで作った箱を包んじゃう、という。
蓮井:面白いですねぇ。瑣末な日常を高度な技術と素材を使って本気で再現している、そこに長谷川さんらしいユーモアを感じますね。長谷川さんの中では、お茶道具の製作と自身の作品と、ボーダーレスなんですね。
長谷川:自分の中ではお茶道具製作を真剣にやっていたからこそ、工業製品シリーズも出来た、と思ってます。
蓮井:今は何があってもおかしくない時代じゃないですか、人は、そういう時、不安定な時ほど、安定を求めるそうです。抽象より具象。確かなもの。そういうことにおいて、長谷川さんがされていることには意味があって、もっというと、長谷川さんは世の中の雰囲気を無意識に吸い取って作っているのかもしれませんね。高松での個展、楽しみにしています。
長谷川:工業製品シリーズと、メインはお茶道具、ぐい呑、菓子皿、皿などを持っていきます。
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