対談この人と
話そう...
たかす文庫「この人と話そう…」 江戸小紋染師 菊池 宏美さん |
1967年2月22日 群馬県伊勢崎市生まれ 1991年 早稲田大学教育学部卒業 ソニーに入社 1997年 江戸小紋師 藍田正雄氏に師事 2002年 日本伝統工芸新作展初入選 2007年 日本伝統工芸展初入選 2008年 日本伝統工芸染織展初入選 2011年 藍田氏より独立 伊勢崎に工房「よし菊」を開設 2013年 第53回東日本伝統工芸新作展にて 東京都知事賞受賞 現在 日本工芸会正会員 |
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聞き手 蓮井将宏(や和らぎたかす店主) |
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・この世で完成されたものとは |
・型に力を注いで 蓮井 実際にこの世界に入って、改めて、菊池さんにとって江戸小紋の面白さって何ですか? 菊池 江戸小紋は型紙を使って染めるので、10人が同じ型を使って染めれば同じ製品ができるかといえば、そうはならないんですよ。出来上がりは染め師の技量で全く違う表情になってしまう。だからよく、ものを作る人が「100%はない」と言いますがまさしくその通りだと思います。100%はないんですが、その都度感動があるんですよね。やっぱりそれは型にも力があるからだと思うんです。 蓮井 良い型にはその人の能力を引き出す力がある、ということですか。もっと言ったらその人となりが出る、と。カタにチを入れると形になると言いますけど。 菊池 そうだと思います。ええ、だから今は型に力を注いでいるんです。例えば、今、型を彫ってもらっている方達もだいたい70歳を過ぎているんですけど、後継者もいないし、自分のピークは過ぎているとおっしゃってるんですね。 蓮井 同じ方でも違いが出るんですか。 菊池 全く違います。藍田先生のところでその方達のピークの時の型を使った経験が私にあるから、その違いが分かるんだと思うんですけど。でもそれも、ピークの時の型を使ったのと同じような染め上がりに修正する技術がありますので。 職人さんのピークの時というのは…より機械に近くなっているのかも知れないですね、体が。精確だし、やっぱり“気”が入っているんでしょうか。 蓮井 なるほど。だから型紙に力を入れて。200枚くらい型を集めているんですよね。 菊池 はい。今は型紙の素材も昔のようにいかなくて、せっかく綺麗に彫ってもらっても、彫りの種類によっては水に浸けると使い物にならなくなることもあるんです。だけど、やっぱり彫り師さんに新しく彫っていってもらわないと。型もある程度消耗品なので。それに幸いなことに私は直接彫り師さんとやり取りして、型を彫ってもらうということがまだ出来ているんですが、この先はどうなるか分からない。ただ、型を彫る時は、1枚で彫るのではなくて必ず何枚か重ねて彫るので、数年後にはもう新しい型を彫ってもらうことが出来なくなっても、今のこの型は後世に残していけるかなと。それがまた別のデザインの元になるだけでもいいかな、と思っているんです。 |
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第53回東日本伝統工芸展で東京都知事賞を受賞した時の型紙。 昭和初期のものです。 江戸小紋着尺 扱き縞ぼかし 「破れ菱格子に花」 |
・やっぱり好きなこと 蓮井 江戸小紋という技術をなんらかの形で未来に伝えていきたいんですね。 菊池 はい。それに、江戸小紋は遠目から見ると無地にみえるような細かい柄ですが、それとは別に中型というのがあって、これも古い型は本当にデザインが素晴らしいんです。 蓮井 浴衣などに使う型ですね。帯や着物にしても面白いですよね。 菊池 そうなんです!それを江戸小紋と組み合わせて帯を作ったり、夏物にしたり。本当に素晴らしいものがたくさんあるので、それをぜひ世に出したいんです。こんな仕事をしていると、よく、特別なことをやってるねと言われるんですけど、そんなことないと思うんです。 蓮井 日常の中で、好きなことをしているんですね。 菊池 ええ。それはSONYにいても教師になっていても同じだったと思うんです。やっぱり、好きなことをしていて。でも独りよがりではなくて、みなさんに受け入れられるものが作りたい。なんでこの仕事をしているかというと、やっぱり人間的に成長したいから、なんだろうと思います。結果的にそういうふうになっていかないと仕事も出来ないんじゃないかと思っています。 蓮井 そんな菊池さんの美しいと思うものがどんどん世に出てくることを楽しみにしています。 |
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