対談この人と
話そう...
2002年12月発行(vol.15) |
たかす文庫「この人と話そう…」 | 建築家 後藤 哲夫さん |
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聞き手 蓮井将宏(や和らぎたかす店主) |
1969年香川県生まれ。芝浦工業大学および大学院在籍中に設計コンペで2度受賞。 隅研吾建築都市設計事務所勤務を経て、劇作家宮本亜門氏の沖縄の私邸「Asian Gate House」の 設計・管理を手がけた後、2000年「哲アーキテクツ」を設立し、独立。 11月に高松市多肥下町にオープンした「わしょく家 二蝶」も作品のひとつ。 |
店主: 後藤さんは、今年5月に完成した弊店の「サロン閑」の設計をしてくれましたが、「ここはいつ来ても、気持ちに沿う空間だ」と言われる方が多いんですよ。どんなコンディションのときに訪れても気持ちよく受け入れられて、癒される感じがするそうです。
後藤:空間と人とのコミュニケーションについて考えに考えて創りあげたサロンですから、そう言っていただけると嬉しいですね。蓮井さんとも、プランが決まるまで2年余りもいろいろな話を交わし、さまざまな建築を見ながら、検討しあいましたよね。どうすればこのサロンで日本と讃岐の美しさを表現できるか。そして、人と人が出会うための空間として何が必要で何が不要なのか、といったことを。
店主:そうして二人で行き着いたコンセプトが「遷宮」でした。20年に一度、建造物を建て替える「遷宮」は、単に建物を新しくして心改めるというだけでなく、職人技を伝承するためにちょうど適切な周期でもあるのだそうです。一人の職人が、かけだし、働き盛り、大ベテランと、一生のうちに3回、立場をかえて「遷宮」に携わるわけですが、そこでは一堂に会したそれぞれの世代の間で、実際の仕事を通して技や精神の伝達が行われていきます。この考え方は他の国にはない、まさに日本ならではの知恵であり精神だと、二人で感動したものでしたね。
後藤:もうひとつのお手本は銀閣寺でした。自然と一体化したところで成り立つ銀閣寺の設計思想は素晴らしいものですから。
店主:金閣寺が外観に感動する建物であるのに比して、銀閣寺は内から外を見たときに感動を呼ぶ建物です。障子を開くと桟を通して、まるで絵画のように切り取られた景色が見えます。そうした風雅を愛でるために、すみずみまで計算されつくした建築なのだと後藤さんに教えられ、僕はわざわざそれを確かめに京都へ行ってみたりもしました。
後藤:そうした施主さんの熱心さが、今度は逆にまた建築家を刺激するものなのです。こうしたセッションを重ねて、最終的に僕達は、日本と讃岐の美しさを象徴する素材を使って、神聖でありながら、繭の中に入ったような安らぎがある空間を創造しようと決めたんですね。
店主:言い換えれば「ああ、日本人でよかったな」と思える空間ですね。
後藤:具体的には「たたみ」「石」「障子」の使い方に神経を注いだのですが、実は二人共「石」に対して、格別のこだわりを持っていることが分かって驚きましたね。
店主:後藤さんが「由良石と庵治石を使い分けましょう」と言ったとき、ゾクッとしました。「そう来るか」という感じでした。
後藤:分かってくださる人は少ないんですけどね、石って地味だし(笑)。
店主:でもサロンを訪れたお客様の中にも何人かは、僕達二人の石へのこだわりを見破った方がいましたよ。「やっぱりうちのお客様は違うな」と思って、すごく嬉しかったです。
後藤:そういう話を聞くと、日本の香りや素材が豊かに残り、それを分かり、理解してくれる人がいる高松だからこそ作れたサロンだと思いますね。
店主:僕は後藤さんに、これからもこういう空間を作り続けて欲しいと思います。そしてそれを日本だけでなく世界へも発信してほしい。それが、日本文化の再生や覚醒につながると思いますから。今日はどうもありがとうございました。
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