対談この人と
話そう...
たかす文庫「この人と話そう…」 漆作家(蒔絵) 山口 浩美 さん
1970年 群馬県出身
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聞き手 蓮井将宏(や和らぎたかす店主) |
春の光が優しい4月に輪島に参りました。 金沢からレンタカーを借りて25年ぶりの旅です。立山連峰の頂はまだ雪を冠っていました。 道中海を見ながら2時間ほど車を走らせると輪島に着きます。家々が大きく立派な事に驚かされました。 山口さん宅にてご主人(木地師・高田晴之氏)とおふたりが暖かく迎えてくれました。 小川が流れる、気の通る場所から創られる美しいハーモニーの物語です。 おふたりとも異郷からこの地に根を張りお子様を育て今に至ります。
■ご縁に導かれて
蓮井:以前に頂いた山口さんのぐい呑みと汁椀、毎日使っていますよ。
口当たりが良くて、日々使って愛用しています。
山口:ありがとうございます。
蓮井:食器って、中国・韓国では手で持たないけど、日本人は手に持つでしょ?手に取ることによって身近に感じる、というか、物に霊性を感じて大事にする、神様と一緒にいる感覚。そういう感覚は、田舎ではまだ残っていると思うんですけど、そういう意味では輪島に移り住まれてどうですか?最初はどんなご縁があったんですか?
山口:縁だけで輪島に来たようなものです。私は群馬県出身で、小さい頃から絵を描く仕事がしたいなと思っていました。といっても身近にロールモデルもいなかったので美術の先生になれば良いのかなというくらいの軽い気持ちで教育学部を目指していた時に、たまたま地元に美術短大ができて、そこの絵画コースの油絵専攻に進みました。1年が終わる春休みに「北陸の工芸をめぐる旅」という研修旅行に参加して、新潟の燕三条の銅器、井波の木彫、石川県の九谷焼、加賀友禅最後に輪島塗を見学して。それまで工芸にはあまり興味がなかったんですが、桜の咲きほこる気持ちの良い季節だったのも手伝ってか、真摯に取り組む職人の姿にすっかり魅了されました。当時は景気の良い時代でしたし、見学した輪島塗の会社は建物も近代的で明るく若い職人も多くいて活気にあふれていました。会社のショールームには色とりどりの漆芸パネルが展示されていて、それは輪島の作家の作品で、日展作家の方もたくさんおられました。何も知らないで来たので、能登半島の先端にこんな世界があったんだと衝撃を受けました。そして絵画的表現もできる漆にとても興味を持ったんです。それから就職を考え始めました。短大の先生だった山村慎哉先生(現在は金沢美術工芸大学・漆工芸教授)に相談すると見学した輪島塗の会社(大向高洲堂)を進めていただいて。職人になるとしても、まずは広く知ってから決めた方が良いとアドバイスをくださったんです。それでその会社の商品開発課に就職しました。
蓮井:20歳くらいの時ですね。
山口:はい、若さ故、何とかなると思っていました。ただ漆の技術はないしデザインができるわけでもない、会社に勤めながら色々なことを勉強させていただいたという感じでした。7年務めたのですが、1年目の時に会社で取引のある漆芸作家の榎木啓先生から「うちに来て蒔絵やってみるか」と声をかけていただいて、それから会社が終わって夜の8時から12時まで仕事のお手伝いをさせていただきました。パネルやオブジェなど自分の作品作りもさせてもらいましたし、筆を持たずに作品や輪島の話しだけという日も多くありましたね。
蓮井:そういう時の話や経験が尊いんですよ。
山口:そうですね。あの時間があったから今があると思います。
蓮井:それで7年勤めて独立したんですか。
山口:まだ独立ではなく、その後も先生(榎木啓氏)のところに2年仕事の手伝いに通いました。輪島に来た時「石の上にも3年」と言うけれど私は10年がんばってみよう、それでダメだったら向いてないのかもしれないと思っていました。それで29歳の時にどうしてもと、独立してしまったという感じです。その当時赤木明登さんも動き始めていた頃で、赤木さんをはじめ輪島の作り手7人で共同運営のギャラリーに参加しました。そこから外に出て行く機会が増えて少しずつ発表の場所が広がっていき、作品作りが始まりました。ただその後32歳で出産し、限られた時間での制作でまた試行錯誤の日々が続く…です。
■蒔絵の楽しさ
蓮井:山口さんにとって蒔絵の魅力は?
山口:シンプルな漆絵から、華やかな金、銀、色漆の粉、螺鈿に使われる貝も何種類もあります。材料の種類が多く表現の幅がとても広いところです。ただ私の蒔絵っていうのが正式に弟子入りしたわけでもなく大学で習ったわけでもありません。いまだに自分のやりたい事を表現するために四苦八苦しています。それでもそこから新しいことを思いついたりすることもあります。
蓮井:それじゃほぼ独力という感じですかね。
山口:正直に言えば技術の拙い部分は創意工夫で何とかする感じです。それを漆の良さがカバーしてくれる、そして何より木地や下地、研ぎなどの産地の職人の確かな技術に支えられているというのも大きいです。その中で私は自由に好きなことをやらせてもらっています。
蓮井:だからか、山口さんが楽しんで作っているというのが伝わります。そしてどこか大らかですよね、山口さんの作品は。
山口:漆のものを、さらには蒔絵のものも手に取って楽しんでもらいたいと思って作っているからでしょうか。「初めて漆のものを買います」と蒔絵のついたものを選んでくださる方もおられます。その時は私の最高の喜びです。
・個展に向けて
蓮井:今回、四国は初めてですか?
山口:1度だけです。ですから個展で四国に行くこと自体が楽しみですし、香川漆器の産地でもある高松でどんな出会いがあるかとワクワクしています。
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vol.93(2022年6月発行)より |
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