対談この人と
話そう...
たかす文庫「この人と話そう…」 漆作家 八代 淳子 さん
1993 東京芸術大学美術学部工芸科卒業
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聞き手 蓮井将宏(や和らぎたかす店主) |
今年十一月、紅葉のとても美しい季に、軽井沢の八代淳子さんを訪ねました。 出会いから十数年が経ち初めての訪問です。八代さんは敷地700坪の敷地にご自宅を建て、 ご家族三人で暮らしています(ちなみに設計は泉幸甫【いずみこうすけ】氏です)。 天を衝く程の大きなもみの木が「御神木」の様で、 映画のワンシーンを思わせる庭の紅葉の風景に心を和みました。 ■学生時代は…
蓮井:紅葉が本当に綺麗ですね。
八代:秋は紅葉、冬は雪、春は新緑と、季節によって目まぐるし変わって目が離せません。今だにきゃー!と感動してます。
蓮井:もともとのお生まれは?
八代:埼玉の浦和です。
蓮井:中学から女子美の付属(女子美術大学付属高等学校・中学校)に通われたそうですけど、何か目指していたんですか?
八代:いえ、その時は普通に絵を描いたり手芸をしたりするのが好きで、親の勧めで。
蓮井:でも大学は女子美ではなく芸大(東京芸術大学)を受験されたんですよね。
八代:高校の時に美術予備校へ通ったら外の世界に出たくなって、それで女子美以外に受験をするんだったら芸大しかない、と。
蓮井:それで見事難関を突破されたんですね。
八代:私、負けず嫌いなところがあって(笑)、受験も肌にあってたんです。デッサンとか平面とかどんどん点数を付けられて、どんどん競い合っていくあの感じがアドレナリンが出て…。
蓮井:わかる気がします(笑)。最初から漆芸作家を目指していたんですか?
八代:いえ、入学当初から作家になるつもりはなくて、就職したかったんです。私、学部の頃は遊んでばかりで、工芸科はほとんどの人が院までいくので私ももう2年通わせてもらったんですけど、その時に伝統工芸の先生が「ちゃんとやらないか」とほぼ一対一で教えて下さって。
蓮井:なんと仰る先生ですか?
八代:林曉(はやし・さとる)先生といって今は富山大学の芸術文化学部で教授をされています。この方に習ってなかったら器なんかとても作れなかったですよね。
■自分が欲しいと思うものを
蓮井:どういうきっかけで作家に?
八代:院を卒業する時に就職活動をしたんですが一番行きたかったところに決まらなくて、他に選択肢がなかったので、とにかく何か作っていこう、と。自分のセンスにはなんとなく、…自分が好きなものを作ることが出来たらどうにかなるんじゃないか、という、…何の確信も根拠もない自信があって…。当時は欲しいと思う漆器が世の中になかったので、そこを狙っていけば、と。それで院を卒業して次の年に友達と2人展をやりました。何もしないわけにはいかないので。とにかく見てもらわないといけないので、色んなところに手紙を書いて、展示会中に次の展示を決めよう、というのを繰り返しているうちに今に繋がっています。その間は派遣のバイトもしながらです。
蓮井:作品に対してはどういう思いで取り組んできたんですか?
八代:若い頃と今では変わってきたり戻ったり色々ですけど、ぼんやりとイメージが頭の中にあってそこにピントを合わせていく感じです。器は道具であれば良いと思う時と、作っているうちにそれだけでは物足りなくなる時と、混在しますね。
蓮井:今、八代さんは自然の中で住んでいますね。制作する場所がここであることにメリットはありますか?
八代:12年ここで暮らして、たまに実家に帰ると違和感はありますね。メリットというか、今の私にとってはこの場所が普通になっています。移住してすぐの頃はよく「この環境が作品に反映されるのを楽しみしています」と言ってもらっていたんですが、逆にここにいると、何もかも綺麗だし、もう敢えて何か作らなくても良いんじゃないかと思うことがあります。わざわざ木屑なんかのゴミを出して作ることに意味があるのかと。
蓮井:今は洋服の部分だけでも二兆円余分の物が余っている様です。だからこそ、良いものを作らないといけませんね。ゴミにならないもの。捨てられないもの。
八代:作り始めた時からそれは思っていました。今は物を作るだけでも罪な時代だろうって。作ったものだけ見るとそれだけですが、その過程で大量のゴミが出ます。大きくなり過ぎた庭の木を切る時があるんですけど、細い木を倒すだけでもぜんぜん風景が変わる。そういうのを知ると、私は今までどれだけの木を倒してきたんだろう、と。
蓮井:足るを知る中で、もう一度そこにお返ししていかないといけませんね。
八代:土の中から何十年後かに出てきたときも、拾った誰かがまた使ってくれるようなものを作れたら良いなと思いますね。
蓮井:今回の個展は2011年の初回から数えて4回目になるんですよ。
八代:そういえば1回目の時にはまだ子供もいなかったですね!
蓮井:お子さんがいるからこそ仕事も頑張れるんですよね。
八代:まあたいへんですけどね。一昨日も、子供が学校で豚汁作って食べるっていうんで、だったらと思ってお椀30個かき集めて持っていったんですよ。クラスのみんなにお椀で食べてもらいました。
蓮井:美味しかったでしょうね!
八代:プラスチックのお椀との違いってあまりわからないかな?と思ったけど、すごく反応が良くって。
蓮井:子供のうちから本物に触れるというのは大事な機会です。では最後に高松での個展に向けてメッセージを頂けませんか。
八代:年齢を重ねて今までと変わってきたところが、良い意味でも悪い意味でもあって、今までのように勢いでやってこれなくなった分、落ち着いて考えられる様にもなったかな、と思っています。芯の部分は変わらないんですけど、それをじんわり出せていけたらなと思います。
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vol.91(2021年12月発行)より |
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