対談この人と
話そう...
たかす文庫「この人と話そう…」 摺型友禅 『多ち花』 代表取締役 河合 洋平 さん
戦後、創業者(袖崎 善蔵)らにより営業開始
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聞き手 蓮井将宏(や和らぎたかす店主) |
2005年の「たかす文庫」にて京都下京区の「多ち花」さんを取材、先代社長の河合憲一さんと対談させて頂き17年経ちます。ちょうどその頃に現在の3代目社長である河合洋平さんも入社されましたが、翌年、先代は鬼籍に入られました。当時の旧社屋にて、先代と話に花を咲かせたことを懐かしく思い出します。また、3代目としての思いを率直に語り、お父様の志を継いで「今」を生きている河合さんの姿に小生も我が身を重ねながらお話を伺いました。 ■『多ち花』の意味
蓮井:お父様と対談した「たかす文庫」を読み返しながら今日は京都に参りました。早17年前のことになります。
河合:僕は大学を出て呉服業界とは関係がない職場で働いていましたが、ゆくゆくは会社を継ぐという話であったので、27歳前後で入社して、父と仕事をしたのは1年4ヶ月くらいのことでした。
蓮井:「多ち花」さんという屋号の由来はどんなものですか?
河合:この道に入って、気がついたらもう初代の祖父も先代の父もいなかったので、伝え聞いたところによると、祖父はもともと千總さんでお仕事をさせてもらっていて、戦争に行って帰ってきてから仲間と商売を始める時、店の屋号を千總さんの紋の中にある橘を拝借してつけたそうです。
■父と息子 2005年たかす文庫抜粋
蓮井:今後、目指すものは何ですか?
先代:息子が入社したこともあって、次代の作り手と売り手を育てるためには、どうしたらいいかを懸命に考えています。それには、まず作る喜びや商売のよさを経験させることです。特に職人さんには、決して高額でなくてもいいから、ゆったりとした気持ちで楽しんで仕事ができる環境や料金を確保してあげたいものです。そうして余裕を持てば、きっと物を見る目が出来てくる。それが出来れば、世界でもトップクラスである日本の工芸技術との相乗効果で、どんどんいいものが出来てくるでしょう。いい物が出来れば、いい商売もできる。そうしたら、物づくりにも商いにも、若い継承者がきっとたくさん出てくるはずです。せっかく先人に残してもらった「日本の染織」という素晴らしい遺産を、次代に、喜ばれる環境とともに継承してもらえるように考え、励んでいきたいと思うのです。
蓮井:どんなお父様でしたか?
河合:アウトドア派でしたね。鮎釣り、山菜採り、きのこ採り、ダイビング、陶芸…
蓮井:多趣味ですね!でもそれらが全部、お仕事に通じていたんだと思いますよ。着物って本来は自然に畏敬の念を持って、その力をお裾分けしてもらって纏う為にあったものですから、草木染めて、襲の色目で季節ごとの色合いを決めて。外の世界のいろんなものを知ることが芸術に繋がるわけですからそれを求めていたように感じますね。
■『多ち花』らしさ 2005年たかす文庫抜粋
蓮井:一つの絵柄を完成させるのに、何枚くらい型を使うのですか?
先代:柄の重さ(複雑さ)にもよりますが、うちの商品の場合は25型から30型が標準です。それを5色程度の色数で摺り分けていきます。ただし同じ色を使うにしても、何度も重ね摺りをして、色の濃淡を作るケースもあります。
蓮井:そうして、色柄ともに独特の、あの「多ち花」ならではの型染めが出来上がるわけですね。
蓮井:技術に拘った専属工場(こうば)での作業は昔と変わらないですか?
河合:変わらないですね。ただ工場の職人さんの数が減ってきているので、同じような仕事ができる工場を新しく探しまして、二本立てでやっています。うちは何百と柄がありますけど、全部自分のところで作った、他所にはないものばかりなので、それが1番の強み、財産です。また、一般的なイメージとして手描きは1点もの、型は量産品と思われがちかもしれませんが、そのもの自体は1反ずつ手作りで作業していることに変わりはないので。生地が違えば風合いが変わりますし、ぼかし具合も一つとして同じものはないですし、1反1反、1点もののつもりで世に出しています。
蓮井:型染めは、型を作るところからして繊細で高度な技術と時間を要する手仕事ですから、手描きと同等のオリジナリティがありますよね。
河合:はい、それからオリジナリティといえば、狭い業界なんで色々情報は入ってくるんですけど、他所で売れていると聞いた売れ筋のものをうちで作っても売れないんですよ、他所で売れているものは他所で足りているわけだから。それを変に追いかけても「多ち花」らしくないものが溜まっていくだけ。何も知らんまま父の跡を継いで、売れるもの、売れないものを作って経験してきた中で、結局、うちらしいもの、他所にできないものに特化してものを作っていこうと。最近なんですけど、そう思えてきました。
2005年たかす文庫抜粋
先代:物づくりにこだわるというのは「多ち花」の社訓のようなものです。創業者である親父は、問屋マンとして、花柳界や芸能界御用達の名門小売店を担当していました。その名店のご主人に審美眼と物づくりのノウハウを徹底的に教え込まれたこともあって、自分のデザインセンスと職人さんの技術をコラボレートさせて、他ではお目にかかれない商品を創り出すことを無上の喜びにしていました。
蓮井:コロナのこういう時代になって、着物は社会一般的にはなくても生きていけるものですが、たち花さんらしさというのはこういう時期にこそ発揮できるものだと僕も考えています。大量に溢れていた物が、潮が引くようになくなって、確固としたものだけが残る時代。偽りのないものが輝いて、もう一度人々の目に美しさを齎すのではないかと。
来年一月に「多ち花」さんらしい着物の数々を披露できることを、今から楽しみにしています。 |
vol.95(2022年12月発行)より |
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