対談この人と
話そう...
2025年4月 |
「 この人と話そう… 」特別編
ガラス作家 江波 冨士子 さん |
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江波冨士子さんの作品展開催にあたり
江波さんのガラス作品との出会いは5年前、コロナ禍の頃でした。今まで体験したことのない不安な日々を過ごしている中で、偶然出会った花々のモチーフが舞う小ぶりなグラスに心奪われたのでした。そのグラスを手にしたとき、気持ちが柔らかくなった気がしました。繊細でありながら軽やかで夢があふれていると感じたのです。そのグラスの作者が、江波冨士子さんでした。 それからというもの、江波さんの展覧会を開くことが私のひとつの夢でした。新緑の気持ちの良い季節、 心ときめくガラス作品をたかすの杜seed/蓮のうてなにてお楽しみ頂けますと幸いです。 ご来場を心よりお待ちしております。 蓮井愛子 拝 |
工房見学記 3月、とある日のお昼過ぎ、神奈川県は三浦半島のガラス作家・江波冨士子さんの工房へ見学に行ってきました。工房の名前は潮工房、1998年にパートナーの小西潮さんと江波さんが作った工房です。 私が工房へお邪魔するのは今回で2回目。前回は個展の打ち合わせ、今回は実際に作品がどのようにして作られているか、一泊二日の日程で時間を気にせずじっくりと、工房での作業を見学させて頂きました。 写真<左>アシスタントの方と声をかけあいながら進められる作業の一コマ 「いつもニコニコ潮工房」という文字が書き込まれています。 <右>ガラス製作や掃除道具がきれいに整頓されています ○16時からお夕飯まで 先ずはお茶碗。 お茶碗は江波さんとアシスタント2名、計3人がかりで制作します。 あらかじめ板に並べたムリーニと呼ばれるガラス片を予熱した板に置いて、その後、炉に入れて出す、という作業を何度か繰り返し、ムリーニ同士を接着します。 様々な種類のムリーニを綺麗に並べた状態 これから熱していく 次にムリーニを温めている一方で坩堝から透明のガラスを出して土台を作成します。 土台が出来たらムリーニと接合させて形を整えていきます。 何度も炉に入れて温めながら形を調整し、始めは開いていた口の部分を丸く閉じ、それから江波さんがポンテを回し、彼女の合図に合わせてアシスタントの方がガラスの反対側から空気を吹き込みます。 温めたムリーニを土台に接着しているところ 火とガラスとアシスタントの方と息を合わせて動き続ける事1時間と少し、鮮やかな色の夏茶碗が完成しました。 この日は茶碗の他にコップを2つ製作しました。 コップは一つ作るのに約30分ほどでした。 作品を製作している過程を見せて頂いて改めて思ったのは、吹きガラスの仕事というものは1人ではできないという事。親方がポンテを握ってアシスタントが親方の次の動きを予測しながら動き、タイミングを見計らって道具の出し入れをしたり、合図に合わせてガラスに息を吹き込んだり。声掛けをしながら丁寧に作っていきます。 江波さん「次○○しますよ」 アシスタント「はい」 江波さん「ブロウ」 アシスタント<息を吹き込む> 江波さん「ストップ」 アシスタント<息を吹き込むのを止める> 江波さん「とてもいい感じですよ。」 アシスタント「ありがとうございます。」 江波さん「もう一度やってみましょう。」 アシスタント「お願いします。」 江波さんとアシスタントの方の会話のキャッチボール、聞いていてとても心地よかったです。 ○18時すぎ、お夕飯 夕飯はアシスタントの方が持ち回りで毎日作っているらしく、その日の賄いはパクチーの乗ったココナツカレーとチキンスープとキャベツの和え物。とっても美味しかったです。 夕飯後はムリーニのパーツ作りを見学しました。今回作ったのは紫色の花びらのお花。花弁や花びら一枚一枚のパーツを組み合わせておよそ10*10*15cmの四角柱を作り、最終的にブロアーでガラスに空気を当てながら両端を引っ張り伸ばしていきます。 花びらを製作しているところ 約2mほどに引き延ばされた棒は約30cmずつに裁断され、後日さらに小さいピース(ムリーニ)になります。 江波さんのガラスは多種多様な模様のムリーニを作り、それを組み合わせて吹きガラスの手法で様々な形の器を創り出しています。 ところで、江波さんがガラスに興味を持ったきっかけは、浪人生時代に有楽町のあるギャラリーで見た北欧のガラス作品との出会いだったそうです。それまでは陶芸を学んでいたので、美術大学では陶芸をと思っていたようなのですが、北欧のガラスとの出会いがきっかけでガラスの勉強が出来る多摩美術大学へ入学、その後富山のガラス造形研究所へ入所、アメリカに渡ります。2年間アメリカのガラススタジオでアシスタントを経て、帰国後パートナーの小西さんと共に工房を立ち上げ今に至ります。 また、大学生の頃から長らくガラス中心の生活をしていた中で、2018年、江波さんはヴェネツィアの単身1年間語学留学を決意しイタリアへ向かいました。その一年間はガラスから離れ、ヴェネツィアで語学学校へ通い、ワインを飲み、ムリーニの生まれた場所での生活を楽しんだそうです。 「それまで前に進むことばかりで、途中で立ち止まるという事をしなかったのだけれどヴェネツィアの1年間で少し立ち止まってものを見たり、引き返すという事ができました。」江波さん ガラスと離れる生活をした事によって改めてガラスに真摯に向き合うことができたそうです。そのように出来た背景には1年間江波さんが不在の間もパートナーの小西さんとアシスタントの方がしっかりと工房の炉の火を絶やすことなく、守ってくれていたから、そして帰国してすぐに江波さんが作業を出来るように準備を万端にしてくれていたからだともおっしゃっていました。 工房見学の2日目に江波さんがお茶を用意して下さっている時に、パートナーの小西さんが、 「僕たちの仕事は一人ではできない、親方とアシスタントがいて作品をつくることができる」と話してくれたのが印象的でした。 思い描いた作品を作る為に、アシスタントの方と息を合わせて作業をしている姿や、500度前後の炉の前を動き回って道具の出し入れをしたり、江波さんの動きや指示に合わせて作業をするアシスタントの方のてきぱきとした動きは見ていてとても気持ちが良かったです。 |
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