店主の
ひとりごと
確かなもの | |
三月に起こった震災の衝撃が大きく、いまだにその中を漂っているような気がします。 そんな中、本当に「確かなもの」とは何だろうか、と考えていました。 それは物なのか、心なのか?―― ある器の作家さんから、最近、「若い方々に求めて頂くことが増え、嬉しいです」と、 聞きました。震災以後、本物(直しが効く、一生モノ)で毎日の食事がしたい、と思う人々が 増えてきたようです。そういえば、現代の私達をも惹きつけてやまない数々の美しいものが 生みだされた安土桃山の文化が花開いたのも、有事の時代です。 人は死を覚悟している時のほうが凛として生きられるものなのですね。 勿論、騒然とした世の中で「確かさ」を見定めるのは難しい事です。けれども、戦乱の世を 生ききった人達の遺した物が持つ普遍の美しさを眺めていると、曇りの無い心で真正面から 物事を見られる人こそが、物の「確かさ」を見分けられるのだと、そしてその「確かなもの」は、 いつしか心に宿るのだと確信します。今の世に遺された物は全てそういう心が作った物では ないでしょうか。 来る年はますます混沌とした時代が訪れる気配ですが、全ての事を吸い込む大地の ような「聖なる諦め」を持てれば、豊かな草木が育つと思います。 苦も無く楽も無い自然(じねん)の季ですね。 良いお年を。 |
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vol.51 (2012年12月発行)より |
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