店主の
ひとりごと
雪明り |
|
四十年以上も前の思い出を書きます。 一面銀色の川辺を、一人の子供が走り回って遊んでいます。手足は霜焼けなのに…。 誰もいない川原は物音もない別世界です。すすきなどの草木に雪が覆い被さり、 その中からぴゅーっと小鳥が飛び出してきます。たぶん巣があるのでしょう。 鳥たちの足跡は小さく可愛いものでした。 その向こうに川が流れています。日暮れ時になると川面が白く輝き、 それを見ると不思議と元気になれました。何もないのに光が残っていると思えた一瞬。 その残像が心の奥底に残っています。まるで埋み火の様に。 その頃と比べ、現代生活は新幹線に乗っているようです。快適で忙しなく、景色は流れるように去っていきます。 雪と無心に遊べた子供時代は鈍行列車でした。左右の景色が変化してゆき毎日が新鮮だったと…。 だからこそ瞼の裏に鮮明に焼き付いて、今の自分に何かを語りかけてくれているのでしょう。 雪が見せてくれた景色を思い出すと、今の私達は自然が気の遠くなるような時間をかけ 創ってくれたものの上に「ちょこんと」座っているだけなのだと思えてきます。(冬には雪が、春には桜が、秋には月が) 自然を前にして、私達はあまりにも無力な存在です。だからこそやるべき事を成し、潔くおおらかに生きたいものです。 |
|
vol.40 (2014年3月発行)より |
←back・next→ |