対談この人と
話そう...
2009年12月発行(vol.43) |
たかす文庫 「この人と話そう…」 浅草の履物工房「楽艸」デザイナー 高橋 由貴子さん |
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花嫁下駄を手に、高橋由貴子さん。 | ||
聞き手・蓮井 将宏(や和らぎ たかす 店主) | ||
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高橋さんに寄せて 東京での修行時代より二十年以上に渡り、お父様の代からお世話になっております。 “たかす”らしいお草履をいつも心込めて創作して頂き、また応援して下さる高橋慶造商店「楽艸」の 高橋由貴子さんより、草履を取りまく興味深い文化のお話を伺いました。 原点を知って行動すると楽しい時代が来ている事を教えて頂きました。 感謝 店主 |
木と草のはきもの 蓮井 日本で最初の履物はどんなものですか? 高橋 最初は、足を保護するという意味で、革で作られる靴の系統があるんですが、日本の場合、 木で作った下駄がメインの時代のほうがすごく長いですね。 蓮井 いつごろから? 高橋 田植えが始まった頃ですね。 蓮井 縄文とか弥生とか? 高橋 そうです。畑が水田になった時、泥濘に入る為に田下駄というものが出来ました。 今、名残りとしては雨下駄ですね。台を高くして足を汚さないようにしています。 蓮井 博学ですね、さすが。 高橋 いえいえ、いちおう履物業界にいますから(笑)下駄は木製ですが、 草履という字は「草」を使いますよね。そうすると、木の履物の流れとは別にもう一つ、 草を編んで作ったもの、要するに草鞋ですが、その二つの流れが長く続いてきた、と私は 考えています。例えば利休が畳表の雪駄を作ったとされていますよね。なぜかというと、 下駄を履いて美しく歩いている人間を一人か二人しか知らない、とおっしゃって、利休は ご自分で畳表の雪駄をお作りになったわけです。 そして強度を増し、滑りにくくする為に、裏に革を使った。 蓮井 現代の雪駄の裏も革ですが、その時から革なんですか。 高橋 ええ。革を使ったのはたぶん利休だったみたいですね。アイデアマンですから。 その利休の流れから、雪駄、畳表の文化が出来てきたんですが、でも下駄のほうがやっぱり 安価ですから、メインはそっちです。 蓮井 庶民は圧倒的に下駄だったんですね。 高橋 そうです。でもその高価な畳表を下駄に貼り付けたものもあります。 農村の花嫁下駄というのがそれですね。花嫁行列が田んぼと田んぼの間の畦道を通りますから、 足を汚さない為に、下駄なんだけど、やっぱりお嫁さんだから豪華にしたくて畳表をつけて、 台に金蒔絵を描いた、という。今でも地方の古いお家にはそういうものが残っているはずですよ。 おばあちゃんが履いていた、とかよく聞きます。 蓮井 戦後、畳表が消えた時期がありますね。 高橋 ええ、要するに戦争で全部靴の文化に変わってしまったんです。戦後、物が豊かになった時代に、 革で作ったお草履が一気に広まって、皆さん、草履といえば、革、という時代になって しまったんです。お茶の世界に一部、畳表が残ったんですが、そうなると、畳表ってお茶とか 庭履きとか、趣味的なもので、正装の時は履いちゃいけないのよね、という認識に なってしまいました。 でも男性が正装で履く雪駄は畳表ですよね、と申し上げると、納得されます。 あるいは、お祝い事に殺生を嫌う地方は未だに畳表ですね。革は動物の皮ですから。 ただ、畳表が顧みられなくなった時代に、生産が激減したので、 今はとても高価なものになってしまったのが残念ですね。 |
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「式」と「宴」 蓮井 着物と、草履とか下駄という履物は、切っても切れない関係だと思うんですが、 履物の世界のこれからはどうでしょう。例えば、先日テレビで女優さんが着物に靴を 履いているのを見たんですが。ああいうのは、新しい着物の楽しみ方で、その方には よく似あってらっしゃったとは思いますが。 明治時代のはいからさん、といったら袴にブーツが印象的ですけど、そういうのは? 高橋 やっぱり良い場合といけない場合があって、遊びであれば全く構わないと思うんです。 でも、その袴にブーツっていうのを今の学生さんが大学の卒業式に真似したいといった場合、 私共にご相談を頂いた時には、「宴」は良いです。披露宴の「宴」とかパーティとかね、 そういう場合には何をしても良いでしょう。ただ、「式」と名がついた時、「襟を正す」という 日本語の言い回しがあるように、そういう心持ちを形に表すべき場合があるんです、と。 ですから足元も白足袋にお草履が宜しいのではないでしょうかと申し上げます。 一方で、草履が履きにくいから、靴を履くんだとおっしゃるなら、それは履物業界の 手抜きでしたよね。足が痛くなるような粗悪なものを提供してしまったという、 本当に申し訳ないです。 ただ、外反母趾とか関節炎とか、足が痛んでいる方が非常に増えています。 確かに日本人の足の形も以前と比べて変わってきてはいるんですが、高温多湿の気候風土を考えても、 下駄やお草履っていう履物の形は、本来、とても合っているんだと思いますよ。 |
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