対談この人と
話そう...
たかす文庫「この人と話そう…」
宮岸織物 宮岸 貞雄さん |
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聞き手 蓮井将宏(や和らぎたかす店主) |
宮岸さんへ
毎年お年賀ありがとうございます。今年の言葉は「変化して常ならず」でしたね。小生は宮岸さんの字が大好きです。 字体に人柄が表れると言いますが、豪放磊落の中に秘められた心の繊細さに魅かれます。 取材当日は篠田桃紅さんのTVをお互い偶然に見ていた話で盛り上がりましたね。桃紅さんは今年百三歳になられるそうです。 人生これからですね。階段の踊り場をうまく利用して美しい帯を創り出して下さい。 いつも愉快なお話、心より感謝します。くれぐれもご自愛下さい。 |
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■変化して常ならず
蓮井:「変化して常ならず」というのは「常に変化せよ」という意味ですね。宮岸さんは帯屋の仕事をはじめて、もう何年になるんです?
宮岸:独立したんが30、いま73やろ?43年か。
蓮井:どんな43年間でしたか?
宮岸:常に自分なりの一番になろう思てやってきた。はじめは他はどんなん作ってるやろ?て、そればっかり考えたけどな、そやけどそれでは到底前に出られへん。誰かの後ろになる。
蓮井:二番手は嫌だ、と。
宮岸:嫌やったな。うん、嫌や。
蓮井:どんな転機があったんですか?
宮岸:今から考えたら阿呆みたいに絵描きさん(※帯の模様を描く図案家)のところでお金使ててん。ええ図案、他の帯屋には扱えんようなデザインを描いてもらおう思て一生懸命やった。一番最初は、絵描きさんとこへ、なけなしの貯金おろして行ったもん、嫁はんと。始めたばっかりの帯屋が「マケてもらえますか」とは言えへんから。けどこのままではいかん、40になったらこの絵描きさんと別れよと思うようになって、それからやな、自分で物作り出したんは。10年くらいかかるんやろな、失敗をしながら。
蓮井:その間、月謝払ったというわけですね。
宮岸:ほうや(笑)…そやけど、お金使てはる人は何かを学んでいくんやな、と思うねん。
蓮井:身銭を切るわけですからね。
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■ピンとキリ
宮岸:月謝というと、もう店終いしはったけどある洋服屋さんからはよう勉強したなぁ。当代一流の店やった。そこで外国のセンスええ色やデザイン見せてもろて呉服もそうならなあかんと思った。しょっちゅう行っては、見るだけではいかんから嫁さんに服買うて帰る。それが月謝(笑)…30年通った。
蓮井:奥さん、良かったですね(笑)
宮岸さんの奥様:目だけ肥えて(笑)…けど、高いものと安いものが分かるようにはなった、と思います。
宮岸:高いのと安いのと共通点があるな。
宮岸さんの奥様:余計なものがないですね。
宮岸:安もんに飾りはつかんし、ピンは飾る必要があらへん。自分が上等やったら飾りなんかいらんわけや。上等に見せようと思うから飾らなあかん。若い頃はそれでええけど、年とったら上質なもんでないと自分を支えてくれんわな。
蓮井:「Advanced style」という、N.Yの60代以上のおしゃれな人を写した写真集を見ていると、生きることとファッションは同じ、年齢は関係無い、と感じましたね。どの人も抜群のセンス。そして上質なものを着ている。でも、やっぱり一番美しいのは姿勢。ちょっと背中が曲がってると思うような人でも胸を張ってる。
宮岸:篠田桃紅さんがそうやったもんな。こないだテレビに映ってて、何歳やなこの人はと思って見てたら百三歳や!驚いたわな。
蓮井:彼女の着物姿は洋服に勝てますね。桃紅さんもN.Yに行ってるんですよ。その時に現代アートを見て、頭がふっとんだんですって、この人たちは楽しくやっているじゃないか、と。私達は型にはまり過ぎている、と。
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■これから
宮岸:まあ、ほんまに今から考えたらあの洋服屋さんに出会ったおかげやな。外国のもんを見て、それに負けんようなものを作りたかった。
蓮井:洋服は哲学的ですからね。論理的な社会だから、しっかりした己がなければやっていけないんじゃないですか?毎年コレクションを発表して。そんなこと着物業界ではしてません。着物の形はもう過去の先人達によって完成されてますからね。でもそこに対しての感謝もないです。
宮岸:努力してないもんな。
蓮井:初心の初という漢字は衣偏に刀。布を裁つということ。でも自分で織った織物に人はなかなかハサミを入れられないものです。だから着物は最小限、七回ハサミを入れて八枚の布にして作られる。すごいことです。僕はこの感動を伝えたい。初心に返るって、そういう店づくりをしたいと思ってるんですよ…。宮岸さんは、この業界の若い人に向けて伝えたいことは何かないですか?
宮岸:これほど、自分を表現出来るものはない、わしずっとそう言うてんねん。自分が思うことやったらええねん。
蓮井:形があることに対する感謝があれば何やっても面白いですね。
宮岸:そうそう。媚びんかったらな。買うて欲しい思たらいかんな。それから、自分の嫁さんを綺麗にせないかん。それが一番、お金払うても価値があること(笑)
蓮井:でも宮岸さん。桃紅さんからみたら、まだまだあと30年ありますよ。
宮岸:わしもあの番組見ててそう思た。後のことをあまり計算したらあかんな。日々のことをやっていかな。
蓮井:今日一日ですね。ということは、まだ人生を語るのは早い、まだまだ小ぢんまりまとまらないことですね。
宮岸:まとまりたいけどな(笑)…まとまらんということはやり続けないかんということやな。
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