対談この人と
話そう...
2003年6月発行(vol.17) |
たかす文庫「この人と話そう…」 | ジャワ更紗専門店「イシス」店主 石田 加奈さん |
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聞き手 蓮井将宏(や和らぎたかす店主) |
テキスタイルデザイン、グラフィックデザインの仕事を経て、ジャワ更紗に出会う。バリの工房でオリジナルの更紗を制作し、6年前に京の町屋に開いたジャワ更紗専門店「イシス」や各地のギャラリーで展開している。 |
■京の町屋の店で
店主:今日は、京都の中京区にある加奈さんのお店「イシス」でお話をうかがっています。
いつ訪ねても素敵なお店ですね。京の町屋を、見事に改造されていますね。
石田:長い間自宅でお客様をお迎えしていたのですが、6年前に夢がかなって、このお店ができました。
この家は、竹で編んだ地に土壁を幾重にも塗るといった、伝統的な京都の町屋の建築法でできています。改造にあたっても、それを踏襲しようということで、ずいぶん手間をかけました。 でも、おかげで、とてもいい味が出ているでしょう。
店主:お店のたたずまいと更紗のかもし出す空気がなんともいえずいいですね。とても加奈さんらしい空間だと、いつ来ても思います。ところで、6月6日から一週間、うちのギャラリーで「イシス展」が開かれますが、2年前にも一度作品展を開いていただいて、そのときは、お客様から「更紗がこんなに表情豊かで楽しくて奥深いものだったとは知らなかった」と大好評でした。皆さんとても興味があって、今回の作品展も楽しみにされているんですよ。
石田:それは、すごく嬉しいですね。
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■優れた工房との出会い
店主:加奈さんの作る更紗は、他で見るものとはどこか違っていて、色もデザインも洗練されていて、それが僕が加奈さんの更紗を大好きな理由なのですが、どのようにしたら、こんなに素敵な更紗が作れるのですか?
石田:私の更紗作りの工房はチレボンというところにあります。ここのマシナという更紗作りの名門ファミリーの一員のような感じで更紗作りに参加しているのです。このファミリーでは8人兄弟のうち5人が自分の工房を運営しているのですが、とくに私と歳の近い2人の姉妹が当初から相棒であり先生となってくれました。私たちのうち誰が欠けても今のようなイシスの更紗は育たなかったと思います。
店主:つまりパートナーに恵まれたのですね。
石田:そうです。この工房は2つの大きな利点を持っています。ひとつは伝統にとらわれすぎない点です。新しいことへの挑戦意欲があって、私のリクエストにも積極的に取り組んでくれます。もうひとつは、オープンマインドで、聞いたら何でもよく教えてくれる点です。最初の頃は、私自身が知識不足でわからないことだらけでしたから、ずいぶん助けられました。
店主:でも加奈さん自身も相当努力されたのでしょう。そうでなければ、工房の職人さんと渡り合って自分の更紗づくりができるまでにはならないと思いますが。
石田:そうですね。あるとき「覚悟を決めて、更紗に取り組もう」と決心し、先代のマシナ氏に「どうしても更紗づくりを学びたいので、2か月間弟子入りさせてください」と片言のインドネシア語で手紙を書きました。返事は来なかったのですが、思い切って直接行ってみたら、工房ではちゃんと席を用意して待っていてくれたんです。そこで、最後の職人とも言えるような本当に手のいい老職人さんたちの仕事を見ながら学ぶことができたのです。あの2か月のおかげで、私は更紗とちゃんと関われるようになったと思います。先代夫妻は最近相次いで亡くなり、今はその後のマシナ更紗を、私たちがどのように継承していけばいいのかと模索中です。
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■1枚に、約半年
店主:今では加奈さんが職人さんたちを指導されることも多いとか?
石田:そうですね、今、トルスミ村には2、3千人ほどの更紗職人がいますが、その中で染料や染色方法について一番知っているのは、おそらく私じゃないかと思います(笑)。現地の職人さんたちには、確かに高い技術を持っているのですが、研究したり、データをとったりということをほとんどしません。ですから、今まで作ったもののサンプルや図案も、全然残っていないし、「評判が良いので、この前のあれをもう一度作ろう」という観念もないのです。その結果、更紗は「一期一会のもの」になります。それは素敵なことなのですが、一方でそのずさんさがデザインや技術の進歩を遅らせている面もあります。また科学的な知識が不足していて初歩的なミスを犯していることもあります。そうしたことを見て「これはちょっと良くないな」と思うところは教えたり、改善したりしているという感じです。
店主:やりがいがありますね。
石田:ええ。でも本当は、一日も早く、現地の人たちが自分たちで自主的に学習したり、改善したりするようになるのが望ましい姿だと思います。私としては、オーダーを出すだけで、思ったとおりのデザインと品質のものが出来上がってくるようになることが夢なのですけど…。
店主:今、そうして完成するオリジナル更紗は、年間どれぐらいですか?
石田:更紗は文様が繊細で染色の工程も多くて、1枚作るのにデザイン考証から出来上りまでに約半年かかります。ですから年間に出来るのは100枚程度ではないでしょうか?
店主:制作のために何ヶ月かは現地に滞在するのでしょう?
石田:夏と冬に2ヶ月ずつ滞在しています。
店主:ところで、加奈さんと更紗の出会いは?
石田:私、出身が高知なのですけれど、私が子どもの頃の高知では、夏になると更紗の服を新調するのが半ば慣わしでした。ですから身の周りにいつも更紗があったのです。てっきり日本全国そうだと思っていたら、そんなことはなかったんですね、誤算でした(笑)。
店主:「イシス」展の初日6日には、ご主人の石田順治さんのバイオリンコンサートも予定しています。素敵な世界が広がるだろうと、皆で楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。
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