対談この人と
話そう...
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たかす文庫「この人と話そう…」 漆芸家 杉田 明彦 さん |
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聞き手 蓮井将宏(や和らぎたかす店主) |
初夏、江戸時代からの住宅を受け継がれた杉田さんの新居にてお話を伺いました。 心を込めてリフォームされた家屋と、犀川の疎水から水を引いた庭のある、とても豊かな空間です。 せせらぎを聞きながら仕事ができる最高の場所であり「くらしの中に仕事が在る」日本の原風景です。 縁側に佇むと心が和みました。 小生が杉田さんの作品に魅力を感じる大きな要素に「フォルムの美しさ」があります。 その秘密が垣間見れた、ひとときでした。 金沢にて 店主 ■これからとこれまで
蓮井:ここは水が流れて、風の通りも心地良いですね。良い空間が完成して心境の変化はありましたか?
杉田:一区切りつきました。器はある程度作ったので、これからは平面を作る、絵を描く時間を作る、大きなものを作る、それをできれば海外でやりたいと考えています。スイスやフランスに知り合いがいるのでアジア以外の文化圏の人に見てもらいたい。あと、僕はヨーロッパの古い器や民具も好きなので、そういう人たちがどう受け止めるのか、というのも知りたいです。
蓮井:今おいくつですか?
杉田:今年で四十二です。
蓮井:杉田さんは大学で哲学科を学び、お蕎麦屋さんで修行されて漆の道に入ったと聞いています。
杉田:学習院の美術史を学んだのですが、そもそもは絵が描きたかったんですね。そのうち芝居にハマり…、漆をやろうと思ったんです。
蓮井:なぜ漆だったんですか?
杉田:実家が漆器店なので馴染みはありました。だから作業のイメージもなんとなく想像できた。じゃあ向いているかな、と。陶器店だったら焼き物をしていたかもしれません。家を出るにあたり落語が好きだったので、まず蕎麦。蕎麦屋に行って、店長に散々絞られて一人前の腕にしてもらったんですけど、でもやはり漆がやりたい、と。
蓮井:赤木さんの事はどこで?
杉田:カミさんが赤木さんの本を買ってきてくれたんです。それから知り合いが赤木さんの個展を教えてくれて、二人で行ってみました。そこに赤木さんが居たけど、気後れがして話しかけられなかったです。それで蕎麦屋経由でツテを頼って赤木さんの工房に行きました。
蓮井:赤木さんのところでは何年居たんですか?
杉田:二十九歳で行って六年居ました。
蓮井:独立するとき自信はあった?
杉田:変な自信はありました。保険もあったし、蕎麦屋っていう(笑)。作家にとって先の方向性を決める、という意味で最初の買い手が重要だったりするじゃないですか。僕は幸いそういう方々に恵まれて、始めの頃はいろいろ真塗の器もやっていたんですけど、そうじゃない平面のものとか、ざらっとしたテクスチャーのものが好きだっていう方が多くて、それで色んな繋がりを作ってもらったんですね。こういうのが好きな人が居るんだったら僕はそんな人の為に作ろう、と。
■フォルム・形
蓮井:杉田さんの器はクラシック・モダンという印象を受けます。今は住まいも純和風ってほとんどない。そういう中で伝統のものを使ってもらう、というのでどういった事を考えて制作されているんですか?
杉田:僕は古いものも写しますけど、なるべくコラージュしています。古いものをただ写すんじゃなくて自分の形を作りたい、それも無理矢理作るんではなくて建築であったり楽茶碗であったり、ジャンルは関係なく組み合わせたり混ぜたりします。ネジやボルトの様なものでも取り入れたくなる要素を感じます。ジャンプって漫画雑誌あるじゃないですか。その中で『ジョジョの奇妙な冒険』という連載があって、荒木飛呂彦さんという漫画家さんが描いているんですけど、その荒木さんが「ぱっと見のシルエットで誰の作品かわからないと駄目だ」というような事を仰っていたんです。それにすごく納得して(笑)。物があった時に端っこにあっても気になる、というところを掴まないといけない。現代の食卓は和食も洋食もどちらも食べますよね。そういう中で和食器的洋食器的な、というような具体的な形は合わなくなっている様に感じます。しかも家庭でもお店でも使えなきゃいけない。でもどっちにも存在できる形となると難しい。だから形の抽象度を上げないといけない、と思いました。具体的にならない様な形で綺麗なライン。そうすると要素を抽出する作業が必要になってくるんですけど、それは中々言語化できないところで…。ミニマルになりすぎると味気なくなってしまったり、あんまりキメキメになりすぎるとその器に他のものが支配されてしまうので、どこかに遊びを入れています。
蓮井:マティスの作品も同じらしいですね。ジャズとか形なんです。マティスはよく色のマジシャンって言われてますが本当は形、らしいですね。
杉田:マティスも切り絵のコラージュ作品を多く作ってますね。ここの庭には茶花も多く植わっていますが、花を生けるのもコラージュだと思います。自然から花を切り取って配置する。僕は自然そのものより生けられた花により魅力を感じる事が多いです。そうせざるを得なかった人の意思に興味がある、というか大袈裟にいうと、業みたいなものですね。そういうものを抱えてる作品が好きです。
■記憶 蓮井:今はポストコロナとか言われる時代ですけど、暮らしから離れたところで仕事しているのが多い。そんな中でこの場所の意味は大きいですね。 杉田:僕の物づくりの記憶は祖父の庭なんですよ。池があって木を切って、船作ってその池に浮かべて遊ばせてもらった、という記憶。それもあってここが気に入った、というところがあります。 |
vol.86(2020年9月発行)より |
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