対談この人と
話そう...
たかす文庫「この人と話そう…」 染色家 荒木 節子 さん
和歌山県新宮市生まれ
|
|||||
聞き手 蓮井将宏(や和らぎたかす店主) |
一筋の道 熊野信仰の中核である和歌山県新宮市で生を受けた荒木節子さん。 子供の頃は一人で遊ぶ事が大好きで、身の回りに好きな物を並べて楽しんでいた様です。 ご実家は曹洞宗のお寺です。立教大学に進み史学を学び、卒業後は 写真家中村正也氏の秘書としての仕事を経て手島右卿氏のもとで書を学びました。 そこからテキスタイルの学校に行き、そこで自分を現す仕事に出会いました。 私達に見せて頂ける染色作品は五十歳からの挑戦によるものです。 荒木さんの地下水にはいつも美に対する謙虚な心が流れています。 それが一つの道になり、今に繋がります。 ご自宅の作業場は整理整頓されていて、美しい作品はそこから生まれます。 暮らし方が大切だという事を改めて教えて頂きました。 四月の個展が楽しみです。 荒木さんに寄せて
■荒木さんの生い立ち
蓮井:荒木さんは和歌山県の新宮のご出身でしたよね。どんなお子さんでしたか?
荒木:一人で遊ぶほうの子でした。家が寺なので、本堂の裏っ方に物置みたいなのがあって、そこへ拾ってきた好きなものを置いておいて。そこへ行って眺めてました。今も一緒なのよ(笑)
蓮井:大学で東京に?
荒木:そうなんだけど、もともと美術系ではないのよ、私。立教の史学出て、広告代理店に就職するんだけど、色々あってそこを辞めて、出版社でアルバイトしていた時に、そこの社長に「中村正也っていうカメラマンが人探してるからいってみない?」って言われて行ったの。
蓮井:不思議なご縁があるものですね。
荒木:そこでスタイリスト的なことを含めて、色々、原稿書いたりとか、10年ちょっとやったかな、居心地が良かった。その頃、原由美子さんとかああいう人たちが出始めるころですよね。私は高田喜佐さんと仲良くさせてもらったり。アフリカの撮影にも同行しました。40日間くらい。
蓮井:中村さんはどういう印象の方?
荒木:好きなこと、スタイルを持っている人だなと。中村正也はやっぱりセンスがすごく良かったと思います。
蓮井:で、中村先生のところを辞めた後は?
荒木:子供の時から書をやっていたから、子供に書を教えるのは良いかもと思って手島右卿先生が校長をされている書道の専門学校行ったの。そこの夜間行って、卒業して、研究科に行って。手島先生は気難しい先生だけど、その頃は丸くなってたっていうんだけど、私には本当に厳しかった。
蓮井:気に入られてたんですね。
荒木:気に入られているとは思えなかった(笑)。でもそれはすごい経験だったと思います。
もう一人、山崎大抱先生という方は優しかった。四万十に行きました。お葬式の時。
蓮井:今までのお話を聴いていたら、荒木さんの作品の根底は「書」ですね。書って究極はバランスじゃないですか、それと今さっきの先生の写真にしてもそうだし、そういうのがどこかにあるんですね。
■人生のリセット
蓮井:帯を作り出したのはどういう経緯で?
荒木:着物に傾倒していた頃、ツテがあって丹後から良いB反を買ってね、染めてもらって着物にしてたら評判が良かったの。それで染色やってみようって。大塚テキスタイル専門学校の夜間に入って、そこを卒業する時に、周りの人に進めてもらって、50歳の時に初個展。そうしたらその中から帯が5本売れたの。他のものは売れないのに(笑)、それから帯を。それで東京でもやれば、ということになって、ワコールギンザアートギャラリーでやったの。そこからがスタートですね。染色は。その時、ギャラリーの人に「(展示内容は)帯だけでやりたいと思います」って言ったら、普通はテキスタイルの作家さんのほうが多いギャラリーなのに、「これからは工芸の方面にも広げていきたいから。良いんじゃない?面白そう」と言って貰えて、それがワコールの企画展になったの。それが今から25年前。ワコールは当時、テキスタイルの人達の良い発表の場だったのね、だから専門学校の先生のところに行って帯作るから捺染台借りたいって頼みにいったら、「考えられる最高の待遇を受けている」ってみんなに驚かれた(笑)
蓮井:登竜門的なギャラリーだったんですね。
荒木:その時に帯を50本作れと言われて、私、何も考えずに出来ると思って「はい、やります」。
で、シルクスクリーンの版作って、1年半かけて制作して、やったの。そしたら評判が良かった。
蓮井:”運”を持ってたんですねぇ。よく売れたんですか。
荒木:それがあまりよく覚えてないの、私。お金のことはあまり考えたことがない。
良いものが出来たら良いなぁ、と。
蓮井:結果的にそういうものが動くんですよ。自然と誰かのところに行って、そこでまた愛される…、
どうして美術とか芸術とかいうものがあるか、僕は以前人と話をしている時に聞いたことがあるんですけど、神様と人間をつなぐためにあるんだって。だから残ったんです。 ものを大事している人は幸せになってますよ。 今日はありがとうございました。7年ぶり、3回目の個展、楽しみにしています。 |
vol.88(2021年3月発行)より |
←back・next→ |