最近よく旅に出ています。旅といっても観光旅行に行くわけではなく、
何らかのかたちで仕事絡み。仕事の旅なのだから出張と呼ぶべき
なのでしょうが、私の場合は出張ではなくやはり旅なのです。
旅はその最中も楽しいし多くのことを学びますが、その後もまた
素晴らしいものです。旅を通してひとつに結ばれた感情や状況を、
帰った後でほどいて見詰め直します。するとそのときには気づかなかった
いろいろな色や輝きが見えてくるのです。
今回はそうした旅のひとつ、感動を受けた美術館について
お話ししたいと思います。
「秋野不矩美術館」。秋野先生は今年で九十三歳。今も一人でインドに
出掛ける女流画家です。十年ほど前に知人から先生の絵の存在を
教えられました。その後毎年京都で作品を観て、「なんて色と形に
力と品格がある絵だろう」と思ってきました。
その秋野先生の個人美術館ができたのは三年前です。ようやくこの度
その美術館を訪ねる機会に恵まれました。美術館には、玄関で靴を脱いで
入ります。するとまるで寺院に入っていくように神聖は気持ちになります。
そして展示室。白い漆喰壁と絵が調和して、ひととき、夢のような時間が
流れます。
秋野先生のご挨拶には「絵は自分の魂の表現である。その表現を
全うする事が作家としての本命であると思う」と書かれていました。
その時には先生の情熱と真摯で自分に厳しい姿勢に「なるほど
素晴らしい人だ」と強い感銘を受けたのですが、その後日を重ねるうちに、
「この言葉はひとごとでは無い。先生にとっての『絵』を自分にとっての
『仕事』に置き換えることができなければ駄目なんだ」と気がつきました。
現場での感動もさることながら、このような後での気づきの多い旅こそが、
実りのある旅と呼べるものなのでしょう。限りある時間の中、
ぜひできるだけ多くの実りのある旅をしていきたいものだと思います。
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