対談この人と
話そう...
2023年6月発行(vol.97) |
たかす文庫「この人と話そう…」
建築家 六車 誠二さん 大 工 六車 俊介さん |
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聞き手 蓮井将宏(や和らぎたかす店主) |
〈Pの変遷〉
20年程前にコインパーキング(P)だった土地を購入し、自然の公園(P)になるように杜を創りました。 5年前にはお茶室「掌庵」を創り、この度たかすの杜に新社屋が完成しました。 この杜は文化や芸術を自然の中で楽しんでもらいたいと思い、創りました。私はそれが人を成長させると信じています。この空間にて人が語らい感動を共有する場になる事を。私は百年後の夢を見ています。 小鳥の声で目覚め、木々の葉っぱのゆらぎに風の存在を知る杜に心遊ばせて下さい。心よりお待ちしております。 最高の幸福は日々を感謝と喜びで生きる事ですね。 癸卯 六月一日 蓮井将宏 拝 |
アルチザン(artisan)、職人
蓮井:今回の仕事はどうでしたか?楽しかったですか?
六車俊介(以下俊介):苦しかったです…(一同笑)…でも、まあ、楽しいほうが多かったでしょうかね。
蓮井:僕は建物が出来上がってゆくのを側でずっと見ていて、若い職人さん達がすごく気持ち良い仕事をしてくれていてね。それは誠二さんと俊介さんが、お互いによく話し合って良いものを作ろうとしているのを若い人たちが見ていて。それが六車工務店という伝統を作っているのだと感じていました。設計と施工を兄弟で担うという誠二さんと俊介さんの関係は、珍しいですよね。
俊介:僕が父の工務店の仕事を始めて30年経ちます。最初から10年経ったくらいに兄が帰ってきて建築事務所を始めてそれから20年。家族間で言い争いはするんですが、喧嘩だけはしないでおこうと。
六車誠二(以下誠二):全国的には親子や兄弟でしているところはないわけではないんですけど、ほとんど喧嘩別れしているんですよ(笑)フランス語でアルチザンというと職人という意味でカッコ良い感じがしていたんですが、技術やモノのことばかりで感性がないという意味を込めて使うこともあるらしいです。うちで言うと、大工は技術屋なんですが、やっぱり設計的な感覚も持っていて、僕は設計なんだけど職人的な感覚を持ちたいと思っていて、というところでうまくいくのかなと思っています。職人は技術と感性が必要。それぞれがどちらかに偏ってしまうと喧嘩別れになるのかなと。それから、以前に蓮井さんを通じて知り合ったインドの建築家ビジョイからも学びがありました。建築ってモノづくりなんですが、完成した後はその建築の中でいろんなことが起こるわけで。なのでモノとコトの中間くらいに建築を存在させないといけない。技術だけで建築を作ってもだめだし、コト、ストーリだけで建築を作ってしまってもだめだと思うんです。
蓮井:杜と駐車場の間の塀について教えてください。
誠二:細い角材を縦に並べた、いわゆる連子格子(れんじこうし)いう法隆寺などの伽藍に使われている歴史的な形を、塀として取り入れています。どういうところからああいうデザインが来たのか僕の中でずっと考えていたんですけど、…角を立てつつ、招き入れつつ、という形…、何かは入れるけど、邪は止める…。塀の隙間に手を当ててみると風が集まってすっと抜けている。他の格子よりよく風が通るんですよ。そういう色んなことが重なって、やってみたいなと思いました。
蓮井:壁面に貼ったグレーの和紙は?
誠二:斐伊川(ひいかわ)和紙といいます。たたら製鉄の玉鋼から出る屑鉄をパウダーになるまで削って、それを和紙に漉き込んでいるものです。
蓮井:天井は杉ですか。
俊介:杉に、オスモという植物油と植物ワックスをベースにした塗料を塗っています。
誠二:小堀遠州の弧蓬庵忘筌という建物があるんですが、その天井には杉材に胡粉で薄化粧をかけていて、西陽が入ってくると空間全体が柔らかく光で包まれるという効果があります。ここも朝日が差し込んでくるのでバウンドさせて天井へ、と。
蓮井:建具なんかは別材で額縁仕立てになっていますね。
誠二:はい、桧というメインに対して別の木を主従のように合わせてみたいというときに、ブラックチェリーは桧の節の色と合うだろうと思って合わせてみました。
俊介:普通は同じ木で済ませますね。
蓮井:この空間はガラスも特徴的です。
誠二:川端康成の『雪国』という物語には夜の列車の車窓に映り込んだ女性を眺めているという映像的な文章があります。また、ミース・ファン・デル・ローエというドイツの建築家はガラスを美意識の世界まで持っていった第一人者なんですが、ガラスは透明というよりも映り込むところが面白いと書いてあるんです。ここは今もほら、杜が写っていますよね、ホールの中から見ると透けるところと映るところが交錯するんですよ。今後こういうのが面白くなってゆくのではと思っています。
蓮井:広がりも出ますしね。映り込むことで広く見える、そういうことですね。
誠二:そういうことも色々考えました。杜を倍に見せたい。
蓮井:そしてここに雨が降ったら傑作の滝ができる、と。
誠二:そうですそうです、白糸の滝(一同笑) 【注意】雨天の時だけ見られます
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人とモノの間
蓮井:建築というのは基本的に人が集まって楽しい話をする、というのが大きな要素ですよね。僕としてはここは公共的な、宇治の平等院みたいな、神社的な空間ができたかなと思っています。
俊介:平等院といえばシンメトリーじゃないですか、この建物もけっこうシンメトリー。それは意識して?
誠二:大学生の時にシンメトリーを好むのは権威主義と聞いたことがあります。でも僕としては、現代の日本の通りってがちゃがちゃしているでしょう、静と動で言うと動。でもシンメトリーってそこでクッと止まるので静なんですよ。少しでも静かな要素を取り入れたいという考えがありました。
俊介:杜の植物はどちらかといえば動?
誠二:それはね、心というものについて僕が最近考えているのは、人と人の間に心、人とモノの間に心があると思っていて、人間は人とかモノとか対象となるものがないと心を発動させる必要がないんですね。建築でいうと、建築の内と外との間というのが要は庭で、庭に心があるなあ、と思っていて。特にここは杜ありきで出発したので、庭を愛でる、庭を大切にするということは心に対して心を開いている構図なんです。
蓮井:2006年からスタートしたこの杜もそれぞれの木が良い枝ぶりになってきました。順番として杜が先にあったのはこの建物を造るために必然だったのかもしれませんね。本当に、色々ありがとうございます。この建物がお二人にとってもまた1つのエポックになればと思います。
俊介:今回、僕はそれなりのものを作ったと自負しているんですが、一から百まで百点満点かと聞かれたら、もっと良くできたところがあるのではと。
蓮井:そう思えるのは、俊介さんの中にパーフェクトという概念が存在するからですよ。ということは僕らはパーフェクトが既にある世界に生きてる、パーフェクトな世界に生きているんだと思います。それを求めることを続けていくことが、その先に繋がっているんです。
蓮井:では最後に、お二人のこれからの抱負を伺っても良いですか?
誠二:今回の建築も含めて、僕らが作ってきたものは都市部では出来ない建築だと思っています。地方だから追求出来る、落ち着いて腰を据えてやることが出来るものがあって、この建物を作っている間にもいくつか新しいイノベーションがありましたし、そういうのを地方から都会に投げ込んで行きたい。現在の日本の山(木材)の状況で、職人不足といわれる状況の中で、こういう建て方が存在するということを発表していきたいですね。
蓮井:俊介さんは?
俊介:僕は、今回一番苦労したのは職人さんがいなかったことなんです。周りから弟子をとれと言われていたけど、そんなに簡単じゃないとずっと思っていたんですが自分が生きた証って建物じゃなくて人を育てることじゃないかと最近思い始めて。良いものを作るというのは大事なんだけど、それを作れるとかそれを作ろうと思う心を持った人を育てることがより大事なのかな、と。どんな名建築も残る残らないは人次第、価値があると思われなければ壊されてしまうわけで、そういうことを説明出来る人を育てていかないと、と思う年齢になってきました。心が、人と人、人とモノとか間にいるんだったら、まず人づくりから始まるのかな、と思いました。
誠二:引き算の美学ってありますよね。有るものから引くことで、有った時よりさらに深い味を引き出すという。それが最近、現状と被ってみえるんですけど、人で言うとそこにいる人を最大限生かすその人の能力を最大限に引き出すという考え方でいかないと、これからは職人さんもいないし。
蓮井:人を育てる、人が育つような環境を作ってあげるというのが確かに大事ですね。「やわらぎ」というのは実は聖徳太子の言葉なんですよ。和とは相手を生かすこと、と書いてあるそうです。そこに尽きますね。また次に良い仕事をするためにも、生かすにはどうしたら良いか…、一緒に楽しんで行きましょう!
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