対談この人と
話そう...
2023年12月発行(vol.99) |
たかす文庫「この人と話そう…」
B-GeneRATEd 店主 岩井 芳樹さん |
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聞き手 蓮井将宏(や和らぎたかす店主) |
Goodman knows goodman
蓮井:岩井さんはデンマークを中心とした北欧の家具や食器、雑貨を日本に紹介する仕事をずっとされてきたわけですが、きっかけを教えてください。
岩井:この仕事を始めて21年になります。それ以前に、大学卒業してから計8年ほど会社勤めをしました。会社を辞めた時、アイデアを求めてパリに住む知り合いのデザイナーさんのところに会いに行くと、パリ郊外のクリニャンクールという大きなフリーマーケットに行ってみたらと勧められて。当時はアメリカ人デザイナーのイームズの家具や建築が流行っていて、ああいう様なもののヨーロッパ製が扱えたら良いなと思ったんですが、ヨーロッパのミッドセンチュリーは高価だったんですよ。それで、そのクリニャンクールに行った時に、木の家具や食器の可愛らしいお店があって。小さなスペースですが置いてあるものは目を引くし、価格も比較的安かったので、どこで仕入れたのか聞いたらデンマークと。それでデンマークに行ったんですよ。元々はアパレル関係の仕事をしていたので、家具のことは最初は全く知らなかったんです。デンマークの代表的な家具デザイナーであるウェグナーの名前さえ知らない状態で。でも行ってみると木の家具中心で魅力的だし小物も面白いし、なんせ当時はまだ安かったんですよ。前の職場の退職金はありましたが、商売を始めるのに資金は限られているので、それがちょうど良かったんですね。
蓮井:そういうものを偶然出会って見つけたんですか。
岩井:はい、面白いお店ってちょっと離れたところにありますよね。私は当時から海外旅行が好きで色んなところによく行っていたので、そういう鼻が聴くと言いますか、デンマークでも自転車を借りて回りまくって。そこで見つけたんです。そこのオーナーが本当に良い人で。幸運な出会いでした。
蓮井:嗅覚があったんですね(笑)。僕が最初に岩井さんのことを知ったのは、浮世絵師の立原位貫さんのところで見た椅子で、すごく心惹かれて尋ねると当時二条にあった岩井さんの店を教えてもらったんです。で、近くだから歩いていったんですよね、てくてくと。立原さんも歩いてて見つけたんだ、と仰っていたのを覚えています。それからのご縁で今回5回目の展示会となるわけですね。
岩井:デンマークで最初に出会ったディーラーさんがすごい良い人で、その人が紹介してくれた人もまたすごく良い人で、っていう繋がりで、向こうではそれをGoodman knows goodmanとみんな言ってました。
蓮井:最初の出会いが大事だったんですね。
岩井:私は前の仕事を辞めてこの仕事をしていくにあたって、人に恵まれないとできないだろうと、ビジネスライクな関係ではやっていけないだろうと思ったんです。そんな中ですごく良いデンマークの家具との出会い、デンマークとの出会いがあったんです。
蓮井:お金を求めていたら碌なことがなくて、人を求めているとそこから広がる世界がある。まさに類は友を呼ぶ、ですよね。今があるのも、岩井さんが良い人であろうとしてきたからだと思います。ここに並んでいる家具達も、岩井さんが好きで集めているものじゃないですか。それをお客様は分かるんですよね。
岩井:そうですね、雑誌に載って流行っているからといって置いてみても自分も飽きるし、お客様も不思議と買わないんですよ。
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北欧ヴィンテージ家具の魅力
蓮井:ヴィンテージっていうのはどういうものですか?
岩井:100年くらい経つのがアンティークで、それより若いのがビンテージ、ですかね。デンマークでいうと、中でも1940年代後半から60年代前半だと思うんですよね、こんな良い家具が作られているのは。私も20年、この仕事をしてたくさんのものを見てきて、他にも色んな人が買い付けにきて、でもまだあるんですよ、良いヴィンテージ家具が。この文化っていうのはちょっと信じられないです。もちろん良いデザイナーが、全ての人に良い家具をという信念の下に作られていると思うんですけど、そんな安価なものではないし。しっかりとしたものを自分の家に置きたい、という民衆の心ざしみたいなものを感じます。
蓮井:富士山の裾野が広大なように、国民の知性の高さというか、そういう人たちがいないと文化は支えられませんよね。
岩井:そうなんです。もちろんデザインが良くて凝った椅子とか色々ありますが、そういうのだけじゃなくて、拘らず、単純に物の良さっていうんですかね、無名でも良い椅子が多いんです。というのも、ヴィンテージだから、メンテナンスをするんですよね、新しく使えるように。そうするとわかるんですが、デンマークのものは他の国のものと比べて全然つくりが違うんです。
蓮井:例えばどう違うんですか?
岩井:ダボが大きい、ダボって木材を繋ぎ合わせる時の接合面の細工なんですが、それが丈夫である、とか。
蓮井:日本の木造建築みたいなところがあるんですね。
岩井:はい、不思議なんですよ。もう48回デンマークに行ってるんですけど、その度に何か日本の文化と似ているものがあるんですよ、人柄とか考え方とか。
蓮井:根本的なところで似通う部分があるんでしょうか。日本家屋に合いますよね、北欧家具は。日本人の精神の中に自然との共生というのがあるように、向こうは木がないから、木を大事にしたんでしょうね。デンマークの人はものを大事にして、三世代で同じ椅子を使う、という…。良いものを長く、それが本当のヴィンテージですよね。
蓮井:最後に、高松の印象を聞かせてください。
岩井:街の空気がのんびりして、海風が爽やかであの空気感がすごく好きですね。
蓮井:穏やかな街にはヴィンテージがよく合いますからね。ぜひたくさんの方に楽しんでいただけたらと思います。
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《対談を終えて》
岩井さんと出会うきっかけを作ってくださったのは今は亡き立原位貫さん(浮世絵師)です。何かに導かれる様に人は人や物に出会い、その出会いを通して螺旋階段を上がる様にこの世を立ち昇ってゆきます。「永遠の今」を大切にしたいと想った対談でした。繋がりを生かせるか否かは現在の仕事に誇りを持ち、丁寧に暮らすことにかかっています。 今回は椅子を中心にした展覧会となります。作者の哲学が一番現れるものです。 美しいものはエネルギーを与えてくれます。ぜひ幸福な椅子を探してください。 蓮井将宏 拝 |
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